18ヶ国目 アイスランド~地球散歩~
「ハーイ!突然だけど明日から車で島一周する予定あるかい?」
予約したのは空港から降り立って向かった最初の宿のみ。とにかく島一周をしたかった俺はその宿で一緒に周る相棒を探すべく、この唐突な質問をいろんな人にぶつけまくった。
レセプション前の掲示板やネットの掲示板、ありとあらゆるサービスを駆使しまくった。「一周しないけど最初の目的地まで一緒に行こうよ」みたいな人はちらほら現れてくれたが、ピッタリな人は見つからなかった。同じような輩がドミトリーにいるだろという安易な発想はあえなく撃沈した。
こーなっちゃあしかたない。
翌朝早めにチェックアウトし近くのバス停まで歩く。向かうは街を出て郊外へ伸びる国道。
バスを待つ間に試しにヒッチハイクをやってみる。開始10分、早々と一台の車が停まる。
レンタカーで島を一周するという彼女らに拾われ、彼女らのプランの最初の観光地まで連れてってもらうことに。
その日の観光地をまわったその後、尋ねられる然るべき質問。
「今夜はどこに泊まるつもりなの?」
「決めてないよ、どうしようかなハハハン
…………君たちの旅に飛び入り参加してもいいかい?」
改め
ドイツファンキーガール2人と行くアイスランド一周14日間の旅
が始まった。
イランとドイツのハーフのアイリーンと、親がもともとアフリカ出身のレイチェル。2人はとにかくとにかく仲が良く、そして笑いの沸点が低く常に笑っている。
自分とは真逆に、2人はほぼ全てと言える島の見どころを調べ尽くし、全日程を事細かにエクセル表にまとめ、すべての諸経費のレシートをノートに保管し手書きで金額を記録していくという徹底ぶり。
そんな満を辞して練り上げられた2人の予定表にも、
『初日、道端でアジア人ヒッチハイカーを捕まえる』
とは書かれてはいなかった。
そんな計画性とは裏腹に、潔癖性の人からしたら発狂しそうなほど車内はぐっちゃぐちゃにモノが散乱しているのだから人の性格ってのはおもしろい。
そして14日間すべて車泊。
いくらなんでも14日間はさすがにクレイジーだろーー
しかし極限まで費用を抑えたいので全面合意。
基本的に朝はパン。ジャムやチーズをのせる。簡易ガスコンロでお湯を沸かしシトラスティーやコーヒーを飲みながら。間食にビスケット、ポテトチップス、バナナたまにリンゴ。毎回毎回散らかり放題の車内で皿はどこだパンはどこだと探すのには2日で慣れた。昼はシリアル、夜は基本パスタ。トマトソース一択。たまにサラダ。スーパーで食材調達外食は一切なし。
アイスランドは言うほどアイスアイスしていなくて、晴れた日は日中15℃以上になることもあった。が、しかし夜はかなり冷え込むので車泊はご想像のとおり。2人はバックスペースを使い寝袋で眠り、俺は運転席と助手席に横たわる。そんな中ガソリン代を節約するためエンジンを切ってエアコンなしで寝る2人の決定には従うほかなく。初夜はつま先から全身が冷え、さすがにこれはヤバイと身の危険を感じた。
それからは現地のスーパーでウールの靴下3足セットを購入。
下は
厚手の靴下×4
ヒートテックタイツ×4
ジーンズ
レインジャケット(下)
上は
Tシャツ
長袖シャツ×2
極薄パーカー
ウルトラライトダウン
レインジャケット(上)
これに
ネックウォーマー
ニット帽
手袋×2 (1つはモンゴルでメキシコ人にもらった、今まで全く使わなかったもの。ライダー用グローブなので風を通さず、まさかここにきて役に立つとは)
頭の先から足の先まで自分のありとあらゆるアイテムをフルに駆使して寒さを凌ぐ。
足先なんてパンパン過ぎてスニーカーは毎晩紐を解いてゆるゆるにしてようやく履けるほど。そんなやりくりも4日ぐらいで慣れた。
クレイジーガールズ、極力費用を抑えたいとは言いつつもそこはやはり女子だからか、3日に1度は各街の1回800円前後の温水プールに入りリフレッシュ。アイスランドでまさかプールに入るなんて思いもしなかった。でもプールといっても入水前にかなり気を遣って全身を洗うことを義務付けられ、42℃前後のホットバスもあるしスチームバスもあるから、プール付きのスーパー銭湯という表現がしっくりくるか。なんにせよハンガリーのぬるかった有名温泉よりよっぽど気持ちよかった。
そんな日常をやりくりをしながらじっくり周った14日間。
轟々と流れ落ちる滝
10分おきに突如地面から噴き出る温泉
山と山がぶつかってできた地球の割れ目
ひたすら地下から吐き出される煙
北部より南部のほうが寒くなる島
火山口に溜まった池にいた魚はどこからきたのだろう
圧倒的大自然を前に「地球」を何度感じただろう。
そして、いったい何種類の色がこの島にあっただろう。
澄みきった空の青
広大な緑の大地に生息する無数の羊の白
ちょうど草木が色を変える時期で、14日間のあいだにみるみるうちに緑から黄へ、そして赤に移り変わる景色を眺めるのは格別だった
ごつごつした黒と灰の火山岩に鬱蒼と生い茂る苔の深緑
山道に咲く紫色の花
至る所に実る小さいまん丸のブルーベリー
火山のせいか真っ黒なサンドビーチ
滝の水しぶきが創る虹
深度によって色を変える川の藍色
湖に浮く氷河は透明であり水色でもあった
洞窟に射す光
教会内の銀のパイプオルガンの音色は美しく
夜空を照らす朱色の灯台
5日目ぐらいだっただろうか、その日はとある温泉スポットの駐車場で寝泊まることにした。雨が降ってこないうちにパスタを食べて早めに防寒着を纏い眠りにつく。
ドンドンドンドン!
突如何者かが懐中電灯でこちらを照らしながら運転席のドアを叩いている。
戸惑いながらドアを開けたその瞬間の視野に映った光景を決して忘れないだろう。
若い男の背後の空一面になびくオーロラ。
思わず3人で抱き合った。
それは黄でもあり黄緑でもあり時として銀にも見えた。
ゆらゆらと帯状になびいたと思ったら形を変え、消えてしまったと思ったら向こうの空から新しい光の群れがやってくるその姿は、まるで龍のような、なにか生きものに思えた。
実はオーロラは毎晩狙っていて、その日の夜は一面の曇り空だったため完全に諦めていた。あの温泉スタッフがここは寝泊まり禁止だから出て行けと起こしに来なかったら見れなかった。ウルトラ感謝。結果的に最後の夜もう一回オーロラ見れたけど、遠くの空だったので最初ほどの感動はなかった。彼は本当に最高の仕事をしてくれた。自分のカメラじゃ何も写せず、アイリーンのNikon一眼でしか残せなかったけど、あの空を見た感動は生涯忘れないと思う。
彼女たちのプランは予定よりも早く消化され、残りの2,3日はかなり持て余した。行くところがもうあまりないうえに後半は天気が悪く、さらに車泊の疲労もピークに達していたことだろう。そのうえ見知らぬ同士なんだから尚更だ。「じゃあ俺はこの辺で!」と言うのも気が引けるし申し訳ない気持ちに少しなった。
最後まで楽しませてくれた2人に、あの日自分の前で車を停めてくれた2人に本当に感謝。素晴らしい出会いだった。本当に楽しかったありがとう。
ただ、彼女たちが俺の前で車を停めたのは偶然ではなく必然だったと確信している。
2人が車を選んだ時点で、この出会いは始まってたんだ。